三國正樹 『読書記録』

今までに読んだ本の記録です。

基本 音楽史

責任執筆者:千蔵八郎      発行所:音楽之友社

読書年:1977年

印象に残った言葉:このように,拍子のかぞえかたは,すべて3拍子を基本としているが,後述するアルス・ノヴァの時代になると,現在のように,偶数拍子を中心とする考え方に変わっていった。

・・・学生のころ購入した本です。音楽史の本は何冊か読みましたが、この本がまとまっていて読みやすい。とくに中世時代の音楽理論については、グラウト「西洋音楽史」とともに常に座右の書として参考にしています。

ところで、人間の手足の数から考えると2拍子が自然な拍子というように考えられますが、西洋音楽はなぜ3拍子が基本だったのか? この基本的な問いに対してずっと答が出せませんでしたが、最近になって「たぶんこういうことなのかも」という程度の考え方ができるようになってきました。大学の仕事「教員免許更新講習」にもこのあたりの内容を取り入れるようにしています。勉強は一生続けるもの。今後も音楽史上の疑問についてひとつひとつ取り組んでいきたいと思っています。

 

シューベルトの音符たち

著者:池辺晋一郎      発行所:音楽之友社

読書年:2007年

印象に残った言葉:とにかく、シューベルトの置かれた環境、その音楽への接しかたは、現代のアマチュアのそれに似ていると言っていい。そして一方、現代の作曲家である僕は、アマチュアの音楽活動が大好きで、アマチュアの合唱やオーケストラとしばしばつきあっている。音楽の神髄はアマチュアにある、と言明してはばからないほどなのである。シューベルトをうらやましいと言ったのは、それゆえだ。

・・・ベートーヴェンの32曲のピアノソナタを公開演奏したあと、次はシューベルトを研究してみようと思って「新・ピアノ音楽と19世紀」というリサイタル・シリーズを開始したのが昨年5月。しかし、第2回(おそらく来年の5月)は違う作曲家を取り上げます。シューベルトで演奏してみたいピアノ作品は限られてしまうことに気が付いたためです。ピアノソナタだと「ホ長調D459」「イ長調D664」「ホ短調D566」「嬰へ短調D571」ですが、D459は五楽章制をシューベルトが計画したのか疑問ですし、D566は二楽章として演奏する人もいます。D571は美しい主題を持つ名作と思われますが未完成で、補完して演奏する気にはなかなかなれません(自分一人で補完版を弾いて楽しむことはありますが)。

シューベルトの音楽は美しいと思います。ただ、気になる点がいくつかあります。まず転調が自然に聞こえない時があること(「さすらい人幻想曲」の第2楽章から第3楽章への転調、ピアノソナタD459の第5楽章の一部など)。そして拍節が分かりにくい時があること(「ピアノソナタ D959」の第1楽章第2主題の一部など) 。そして、ピアニスティックな演奏の喜びという点で他のロマン派作曲家にやや及ばないように思われること(そこが魅力とも言えますが)。そんなことから、シューベルトソナタを2曲演奏した段階でいったんお休みにし、来年はシューマンショパンの作品を予定することとしました。詳細はこれから考えます。

幻のピアニスト リヒテル

編者:小野光子・佐川吉男      発行所:朝日出版社

読書年:1989年

印象に残った言葉:つまり、リヒテル論でもいろいろいわれているにもかかわらず、私には、彼の特徴は”表現力”というより、楽譜にあるものの”純粋抽出のひたすらの努力”というふうに思われるのである。

・・・小野光子(てるこ)さんの「リヒテルと私」より。たしかにそのように感じられることもあるのですが、私はこういう、「楽譜に書いてあるものをその通りに表現する」ということは今一つわかりません。たぶん私の音楽的な教養が少ないからなのだろうと思っていますが、楽譜通りに演奏している、という人の演奏を聴いても「楽譜通り」とはとても聞こえないということもあるので、いったい「表現」とは何だろう、と思うことがよくあるのです。

この本はリヒテルの芸術についてさまざまな角度から述べられていて面白い本でした。特に宮沢明子さんの「リヒテルの不思議」で述べられている1963年の演奏会の様子が面白い。「まるで音楽界など無視しているかと言わんばかりの表情をした」リヒテルが開演時間を40分も遅らせた後で淡々とバッハ、シューマンを弾いていく姿。「謎(エニグマ)~甦るロシアの巨人」というDVDも見ましたが、確かにこの人は謎のピアニストかもしれません。ただ、原田英代さんがかつて雑誌「ショパン」に書いていたリヒテル論(2016年9月号)はなかなか素晴らしいもので、リヒテルの音楽観の一部を見た思いがしたことを思い出します。

二十世紀音楽の楽しみ

著者:宮本孝正      発行所:審美社

読書年:1995年

印象に残った言葉:フォーレピアノ曲は、何種類ものディスクが示しているように、無名どころではないけれども、それらが作品の実績に見合うだけの評価を得ているかとなると、いささかこころもとない気がする。フォーレは偏愛される作曲家だから今さら推薦してもらう必要はない、と言われれば黙り込むしかないのだが、それでもこれだけは上げておきたいという曲がこれである。

・・・高校生のころフォーレの作品で知っているものと言えば「ドリー(友人と連弾)」「バラード(先輩が学内演奏会で弾いた他、安川先生のリサイタルで聴いた)」「主題と変奏」くらいでした。その後、室内楽に素晴らしい作品があることを知り、東京文化会館音楽資料室に行って何度もレコードを聴いたものです。お金に不自由な時代、学生証を見せれば何時間でも音楽を聴くことのできるこの場所は本当にありがたい存在でした。ただ、自分でフォーレの作品を演奏をするようになったのはずっと後になってからです。1992年に舟歌を演奏した時、友人の一人が「フォーレは分からないから感想はやめとく」と言ったのが印象的でした。そんなに「分からない」作曲家なのでしょうか?

イギリス音楽の復興

著者:マイケル・トレンド(木邨和彦訳)      発行所:欧史社

読書年:2004年

印象に残った言葉:もう一つの注目すべき特色は、アイアランドが地理への強烈な感覚を持っていたことである。アイアランドはアーサー・マッケンの神秘主義の著作にひかれ、著者が買右折する口寄せ、魔法、古代の儀式の不思議な力に興味を抱いた。特にチャネル諸島に魅せられ、この島嶼を何回も訪れる。

・・・ジョン・アイアランドの作品を知ったのは、池袋の西武デパート「WAVE」という店でピアノ協奏曲のCDを購入してからです。このCDには他にブリッジ、ウォルトンの作品も録音されており、これがきっかけでイギリス音楽への興味が湧いてきました。次にパーキン演奏のアイアランドのピアノ作品全集を購入、「装飾」「ロンドン小品集」「サルニア」などの名作に魅せられましたが、「サルニア(本書では“サーニア港”)」第1曲の「Le Catioroc」の意味がどうしても分からず、いろいろな人に聴いたことを思い出します。知人A氏に「ブリティッシュ・カウンシル」に行くよう勧められ、途中の神保町を歩いていた時に「富士レコード社」でダニエル・アドニの演奏する1枚(写真)を見つけました。その解説を読んだところやっとこの曲について分かったのです。ずいぶん昔の思い出でした。

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豊かなイギリス人

著者:黒岩徹      発行所:中央公論社

読書年:1995年

印象に残った言葉:イギリスの学校を回っているうちに、日本にはない教授法を見つけた。「プロジェクト」と呼ばれる教授法である。一つの題目を生徒が自分自身で選び、それについて数週間あるいは一学期間かけて調べ、書き上げるのである。大学の卒業論文と思えばいいかもしれない。それを小学校一年生からやるのである。

・・・20年くらい前、イギリスの作曲家についていろいろ調べ、演奏していた時期がありました。日本の音楽業界はドイツ音楽を志向しがちですが、国民楽派など、いろいろな国の音楽をもっと知る必要があると思っています。英国の作曲家ではエルガー、ブリッジ、アイアランド、ブリテンホルストヴォーン・ウィリアムズなどが有名ですがその他にもシリル・スコット、アーサー・ブリス、ウィリアム・ウォルトン、チャールズ・ヒューバート・パリー、ジョン・ラターなど重要な作曲家がたくさんいます。残念ながら英国は行ったことのない土地ですが、こういう本を読んで少しでもその文化を知ることができたらと思っています。

「社会調査」のウソ

著者:谷岡一郎      発行所:文藝春秋

読書年:2000年

印象に残った言葉: 社会科学における統計的な有意さは、通常、九五パーセントに設定されている。つまり偶然は五パーセント以下ということになるわけだが、ということは、二十回に一回程度は偶然があってもおかしくないということである。

・・・この一年間、ある仕事の関係で統計学を勉強しなおしています。それとは直接関係のない本ですが、社会調査の過半数はゴミである、といういささか過激な内容を読み直してみました。最初に読んだのはかなり昔のことですが、たとえば「forced choice(強制的選択・特定の選択肢が上位にくるような質問の作り方)」や「carryover effect(キャリーオーバー効果・後半の質問に向けてわざといくつかの問題点を設けて先入観を持たせる方法)」などを知りました。

この本で「リサーチ・リテラシー」について学ぶことができて良かったと思っています。