三國正樹 『読書記録』

今までに読んだ本の記録です。

誰がヴァイオリンを殺したか

著者:石井宏    発行所:新潮社

読書年:2003年

印象に残った言葉:筆者はこのベルゴンツィ氏に対面する機会があった。話の中で私は「何人ものあなたの楽器の愛好家が日本にいるが、とりわけ、あなたの楽器の音色が気に入っているという人がいます。あなたご自身は自分の楽器の音色の特徴について作家としてどういう意見をお持ちですか」という意味のことをたずねた。すると彼は即座にこう言い放った。「あらゆるヴァイオリンには、固有の音色なんてありませんよ。ヴァイオリンから聞こえてくる音というのは、すべてその弾き手の音です。別の人が弾けば別の音がします」

・・・「現代のヴァイオリン奏者の音が貧しいのは彼らの感性が昔日のそれと同じではなくなっていることの証し」とそのあとに述べられていました。それが正しいかは置いておくとしても、現代はたしかに「音」について人間の感性が昔とは違ってきたことは確かでしょう。かつてヨーゼフ・シゲティが日本を訪れた時に、東京の街があまりに騒音に満ちているため耳栓をしていたという話もありました。この感覚は新潟県の中山間地で育った私にはよく分かります。父が教員として赴任した学校のあったその村は自然に恵まれた静かなところで、時々母が私を実家に連れていくとバスが通るたびに怖くて泣いていたという話でした。今でも夜は静かでないとよく眠れません。現代はいろいろなことが純粋な芸術心とは離れた時代になっていることを強く感じるのです。