三國正樹 『読書記録』

今までに読んだ本の記録です。

幻のピアニスト リヒテル

編者:小野光子・佐川吉男      発行所:朝日出版社

読書年:1989年

印象に残った言葉:つまり、リヒテル論でもいろいろいわれているにもかかわらず、私には、彼の特徴は”表現力”というより、楽譜にあるものの”純粋抽出のひたすらの努力”というふうに思われるのである。

・・・小野光子(てるこ)さんの「リヒテルと私」より。たしかにそのように感じられることもあるのですが、私はこういう、「楽譜に書いてあるものをその通りに表現する」ということは今一つわかりません。たぶん私の音楽的な教養が少ないからなのだろうと思っていますが、楽譜通りに演奏している、という人の演奏を聴いても「楽譜通り」とはとても聞こえないということもあるので、いったい「表現」とは何だろう、と思うことがよくあるのです。

この本はリヒテルの芸術についてさまざまな角度から述べられていて面白い本でした。特に宮沢明子さんの「リヒテルの不思議」で述べられている1963年の演奏会の様子が面白い。プログラムの写真では「まるで音楽会など無視しているかと言わんばかりの表情」に見えたリヒテルが、開演時間を40分も遅らせた後で淡々とバッハ、シューマンを弾いていく姿。「謎(エニグマ)~甦るロシアの巨人」というDVDも見ましたが、確かにこの人は謎のピアニストかもしれません。ただ、原田英代さんがかつて雑誌「ショパン」に書いていたリヒテル論(2016年9月号)はなかなか素晴らしいもので、リヒテルの音楽観の一部を見た思いがしたことを思い出します。